《金属(鉄)の話を少し》

【ゆるーい鉄の話】

(α君)缶ジュースの缶って材料は何か知っているかい?

(β君)アルミかスチール(和名:鋼)じゃないの?

(α君)そうだね、じゃあその缶を手でつぶすことは可能かい?

(β君)アルミは可能だけど、スチールは固くて変形させにくいよな。そういえばアルミは底が円いけど、スチール缶は平らだったな。

(α君)缶の底の形状はあまり関係ないけど、確かにアルミは変形させやすいよね。しかしスチール缶の元になっている鉄でも純粋な鉄(炭素量が0.02%以下)は柔らかくスチールと比べて簡単に変形させることができると言ったら驚くだろうか。先ほどの缶はスチール、いわゆる鉄で構成されているから手でつぶすことができないという回答はあながち間違ってはいない。スチール缶は手で変形させることはできないため、厳密には鉄の変形のさせやすさにプラスアルファの強度を持たせているといえるのではないかな。

(β君)純粋な鉄の場合はスチールと呼ばないの?

(α君)うん、鉄といっても含有される炭素の比率で名称が変わるんだ。鉄の場合分けをすると次のようになる。

純鉄:炭素含有量が0.0218%まで(0.0218はフェライトの炭素最大固溶量)

鋼:炭素含有量0.0218を超え2.14%まで(2.14はオーステナイトの炭素最大固溶量)

鋳鉄:炭素含有量2.14%を超えて6.67%まで(6.67%を越えるとセメンタイトと炭素から構成される鉄炭素合金)

(β君)なるほど、炭素量が0.0218~2.18%をの鉄を鋼と呼ぶんだね。

(α君) 2つ目の鋼は、刃物に用いる金属として昔は刃金(はがね)と呼ばれていた。これらは炭素量が多くなるほどその鉄自体の硬度が向上し、硬くもろい性質に変化する。また、鉄に炭素を加えて焼き入れという火入れをすることにより、硬くなるという特性を生かし、鉄器時代以降様々な技術が発展した背景があるんだ。ちなみに純鉄は錆びにくいよ。

(β君)なるほど、ためになったよ。

 

 

 

【磁性のお話】

(β君)磁石にくっつくのは鉄とステンレスのどっちでしょう?

(α君)くっつくのは鉄の方でステンレスは磁石にくっつかないと思うけど。

(β君)うん、しかしなぜステンレスは磁石にくっつかないのか考えたことはないだろうか。

(α君)ないね、でも何でやろ?

(β君)実際のところ、一般的なステンレス(SUS304など)は鉄を60%以上含んでいる。では残りの40%の元素が、ステンレスの磁性を消しているのかと思われるかもしれないけど、実際は興味深いことが起きているんだよ。

(α君)へー、それにしてもステンレスにも鉄が60%以上も含まれていたんだなあ。

(β君)ステンレスの種類は大きく分けて3種類あって、そのうちの2種類は磁石にくっつくが1種類はくっつかない。

(α君)何が性質を分けているの?

(β君)簡単に言うと金属を構成する結晶の形が異なっている。くっつかないステンレスはフェライト系とマルテンサイト系とよび、代表的なものとして前者はスプーンやフォーク、土木で使用される構造鉄筋、後者が包丁や工具などの固さの要求される部位に使用される。このくっつかないステンレスがごく一般的なオーステナイト系ステンレス(SUS304など)である。こちらはナットやボルト、キッチンのシンクなどに多く使用されることが多い。

(α君)なるほど、ステンレスにも鉄と同様に種類があり、そして用途が異なるんだ。

(β君)ここからが重要で、ステンレスを構成する成分はくっつく方のステンレスにはクロムを含んでおり、くっつかない方はクロムの他にニッケルを含んでいる。なので、このニッケルが磁性を防止しているのではと考える。

(α君)実際そうじゃないの?

(β君)でも実際は、ニッケルも磁石にくっつく性質を持っている。

(α君)え、逆でないの?だって、くっつく方が、磁性のあるニッケルが入っていて、くっつかない方はニッケルが入っていないんだよね?

(β君)そう、実は磁性を帯びるのは【鉄】、【ニッケル】の他に【コバルト】がある。しかもこれらは温度変化により磁性を帯びたり帯びなかったり変化するのが興味深いところだよね。少し難しくなるけど、鉄の原子は3次元の方向のいずれの方向にも同じ磁化する性質があるんだ。

(α君)でもクロムはくっつかない性質なのになぜ、他の2種類のステンレスはくっつくのかという疑問は解決されていないよ。

(β君)これも専門的な話になるけど、これはクロムが鉄の原子と置換して大量に混ざっても、鉄の磁化を防ぐことができないからなんだ。要するに鉄の性質が強いため、クロムの影響を受けないんだね。

(α君)しかし、ニッケル単体は磁石にくっつくが、ニッケルの入っているステンレスにはくっつかなくなるのだろうか?

(β君)ニッケルが鉄の結晶と置き換わって入り込むだけでなく、ニッケル自体が磁気異方性のある原子で、その磁気異方性が鉄の磁気の方向を邪魔する性質があるためだよ。

(α君)難しくて何回も考えないと理解できないよ~。でも解明した人は素晴らしすぎるな。

(β君)そうだね。鉄にニッケルが約8%入るだけで一般的なステンレスであるSUS304の磁性は失われ、磁石にくっつかなくなるなんて上手い事になっているよな。

 

 

 

【錆のお話】

(α君)鉄とステンレスはどちらが錆びる性質をもっているでしょうか?

(β君)鉄は錆びるけどステンレスは錆びないかな。

(α君)じゃあ、ステンレスが錆びないのはなんでか知ってる?(β君)たしか、不働態被膜と呼ばれるニッケルとクロムの役割が大きいのではなかったかな。

(α君)さすがだね、でも本当はどちらも錆は発生するんだ。難しい言葉で異種金属接触による腐食(違う金属同士の接触)により、片方の金属からもう一つの金属に微弱な電気が流れ、それにより錆びてしまう事もあり、ステンレスも例外ではない。もっとも条件としては電解質などの電気を通しやすい性質をもった環境下における場合に限るけどね。

(β君)いしゅきんぞくの話は詳しくはいいや。

(α君)ステンレスは先ほど書いた不働態被膜により錆は防がれるが、台所の水に濡れたステンレスシンクの上などドライバーなどを置いておくと、翌朝オレンジがかった錆がステンレスシンクとドライバーの間に発生していることがある。

(β君)あるある、何回か目撃したわ。

(α君)これはどの金属にも起こりうることだけど、ステンレスは他の金属の錆に触れることによって錆びたんだね。いわゆる、もらい錆によっても錆が発生することがあるので絶対に錆びないということはない。まあ、表面を拭いたらきれいに落ちるんだけどね。

(β君)金属も奥が深いね。

(α君)せやね。