《山登り》

《山登り》

(α君)先週はθ子に誘われて近くの山に登ったんだけど散々だったよ。

(β君)θ子は結構アクティブだからね。しかし、散々だったという事は何かヤバいヤツにでも遭遇したの?

(α君)いや、自分の普段の運動のしなさが全面的に表れただけだ。それに今も筋肉痛がひどくてまともに歩行する事もままならない程にね。あと精神的にも疲れたわ。

(β君)それは災難だ。しかし山登りほど、人と自然と密接に関われる趣味はないと思う。

日本の文化遺産として2013年に世界遺産登録された富士山は更に登山客に足を向かせ、ますます知名度と共に威厳を示すようになったぐらいだし。

(α君)なんなん急に語りだして。

(β君)最近は日本人観光客のみならずに外国から、登山ツアーに参加する人々にいると聞くし、アニメのヤマノススメ山ガールという言葉により、登山が一層より身近に感じられたことも一因であるんだろうね。

(α君)僕らが登った山では、特に人気も少なく、誰でも気軽に行けるような雰囲気ではあったけど。

(β君)しかし、たかだか日本の山であるから安心という事はなく、海外の数千メートル級の高山と比較したら危険ではないとは思われているみたいだけど、最近は数百メートル級の山でも遭難して下山できない事態が多発していると聞くよ。

(α君)それθ子も言ってたし、新聞にも記事にされていたような。やっぱりそんなに高くない山だから大丈夫という思い込みがその人を慢心させるってことだね。

(β君)さて、整備された山々はその動線に沿って進めばよいが、人のあまり普段立ち入らない、もしくは自然災害により景観が著しく荒廃している酷道を進まざるを得ないことがあるみたいだ。

(α君)そう、数か月前の台風の影響で、道が枝葉に妨害されていて正規のルートが分からなくなっていた箇所が多くあったわ。それにあちこちに地すべりのような跡があり、そこに足を滑らせると一巻の終わりのような景観が広がっていたしね。

(β君)すごそうな場所だけど、ところでα君はどこの山を登ったの?

(α君)兵庫県にある舎◯林山へ行ったんだけど、入り口や出口が複数あるみたいなんだ。

(β君)θ子がおススメなコースを紹介してくれたってこと?

(α君)そう、通常ルートでは住宅街を抜けてその裏がスタート地点になっており、そこから岩肌の見える頂上をめざしてから下山するのが一般的らしい。

(β君)そんなところからスタートするなんてなんかロマンがあるね。

(α君)正直そんなところが山の入口とは思いもしなかったよ。誰かの家に向かっているような。しかし、いざ住宅街を抜けると急に山道になり、道なりに30分程かけて進んでいった。そして頂上からはルートが複数分岐しており、選択した山道により目的地も複数となるみたいなんだ。しかもそこに至るまでにも細やかなルート分岐点があり、いくら一般的なコースといっても同伴者がいないと不安になるレベルにね。

(β君)よく帰ってこれたね。

(α君)もう、ホンマにすごいコースだったで、聞いてくれる?今回は時間もあるという事で頂上から右に曲がり、そこから直進のルートを選ぶことにしたんだけど。

(β君)進んだんだけど・・・。

(α君)しばらくは人の歩いた動線が確保されていたのだが、次第に道幅が狭まり、ついには完全に道がなくなってしまったんだよ。

(β君)分かる、それまで道があったのになぜか急に道がなくなるパターンね。

(α君)しかも気が付いたら今の自分が立っている場所は急峻な斜面で、地面には落ち葉が積もり、湿気を帯びて水を含んでおり非常に足場が悪い。斜面の底には岩肌の見えた地面に大雨後の森林の保水効果であろう水がこんこんと流れており、下まで降りることもできない。こけると谷底まで滑り落ちていくことになる。かといって今更引き返すことにできずに強引に進むことにしたんだ。しかもθ子は、苦労する僕を傍目に先々進んでいるし腹が立つで。しかもθ子曰く、こんな道は初めて通るとのこと。

(β君)それは災難だったね。台風の影響で新たな道が切り開かれたんだね。

(α君)そして、だいぶ標高も下がり、日も暮れてきたのでもう下りられるかと胸をなでおろそうとしたが最後の難関が待ち受けていたんだよこれが。

(β君)まだ何かあったの?

(α君)眼前には人口の池が広がり、行く手を阻んでいた。

(β君)まさかの!

(α君)万事休すかと思ったが、池を迂回するように山道は続いており、何とか池を回り込むことができた。θ子が池を渡らなければならないかもしれないと言ったときは、本気で救助要請しようと思ったぐらいだったし。

(β君)要請すればしたで家族にも迷惑掛かるし、要請の費用もばかにならないよね。確かGPSで居場所を知る事が出来るんだったかな。

(α君)呼ばなくてよかったと今でも思っているわ。しかしその池を越えても、なんと第2、第3の池の存在しており、やけくそになりながら泥だらけになりながらも何とか山を下りきったんだよ。その時は本当にうれしかった。

(β君)日本には樹海は少ないかもしれないが、やはり方向感覚が分からなくなることもあるだろう。初めて登る山であったり、初心者同士の場合はなるべく複数人数で行動する方が望ましいね。

(α君)まあ、θ子が同伴の分、気分的には安心感があったけど、僕みたいにあまり山に慣れていない人が楽観的に考えているとひどい目に合うかもね。

(β君)それに最近は山間部の開発により、そこで暮らしていた動物たちがふもとの民家に現れたり、食べるものがないため他の山から移動してきたりする動物もいるよ。特に熊などは冬眠する前の栄養補給ができず、本来なら冬眠している時期でも普通に遭遇してしまう場合もあるかもしれない。これはかなり危険な状況で熊にとっては乾坤一擲な食事条件になることもあり得るし。

(α君)そういえば登っている最中に一瞬黒い塊が横切ったように見えたけど、あれはなんだったんだろうか。でも熊が出るとは聞いていなかったしなあ。

(β君)熊になど出会うはずがないと思っていても自分がその山で見た初めての人物になる可能性もあり、常に緊張感を持って行動することを忘れてはならないで。熊に出会ったとしても決して死んだふりは通用しない。逆に熊自身が興味を持って近づいてくるからね。最も良いのは熊と遭遇しないことが一番だけど、予防策として大きな音を立てて、そこに人間がいることをアピールする事が出来ればいいね。出来れば木の棒片手に木をたたきながら進むなど(一応は杖代わりや武器?になりえる)がいいかな。あと、某テレビ番組のK1チャンピオンが熊とのパワーウオール対決をしていたが言うまでもなく熊の圧勝だった。言うまでもないが熊と仮に接触しても戦意を向けないことが肝要かな。

(α君)当たり前、誰が熊と戦うというんだ。熊にとっては遊びだけどこちらは防衛戦になるわ。とりあえず動きやすい靴で動く方がよさそうやな。

(β君)山に登る際は本格的なトレッキングや雪山を想定しない限りは重装備は代えって荷物になるよ。ブーツまでとは言わないがサンダルなどの露出の多い恰好は言うまでもがな、滑り止めのあるスニーカーにとどめてほしいかな。実際は登山用の大きく重い靴の方が疲れにくいんだけどね。というのも足元の不安定な場所や枝葉が多い場所でも都合がよいからなんだけど。

(α君)歩きなれた靴で山に慣れた同伴者がいれば心強いね。

(β君)他にも注意することがある。山に登り始める際は時間も気にすること。登っている最中は明るくても下山時に暗かったら道が分からなくなる。これが遭難になる大きな理由だよ。

(α君)もう少し日が暮れていたらアウトだったな。

(β君)土地勘がないのであれば事前に紙の地図を確認したり、携帯電話のグーグルマップで現在地を確認しつつ行動をした方が良いよ。ともあれα君たちが無事でよかった。